30.出羽山刀伐峠

【芭蕉自筆影印】
 南部道者る可に見やりて 岩手の里耳泊る 小黒崎 水の小嶋を過て なるこの湯より尿(シト)前の関耳可ゝ里て 出羽能国に越無と春 此道旅人稀なる處な禮者 関守にあやしめら禮て 漸(ヨウヨウ)尓して関をこ春 大山をのほ川て 日既暮遣禮者 封-人の家を見可氣て舎リを求ム 三日風-雨あ禮て よしなき山中に逗留す
(南部道はるかに見やりて、岩手の里に泊る。小黒崎、水の小嶋を過て、なるごの湯より尿(シト)前の関にかゝりて、出羽の国に越むとす。此道旅人稀なる処なれば、関守にあやしめられて、漸(ヨウヨウ)にして関をこす。大山をのぼつて、日既暮ければ、封-人の家を見かけて舎りを求む。三日風-雨あれて、よしなき山中に逗留す。)
 蚤虱馬能尿(バリ)春る枕もと
(蚤虱馬の尿(バリ)する枕もと)

 あるしの云 こ禮より出羽の国尓 大山を隔て 道さ多可ならさ礼ハ 道志るへの人を頼ミて越へきよしを申 さら者登云て 人を頼侍連者 究-竟(クッキョウ)の若もの 脇指をよこ多へ 樫の杖を携て 我ゝ可先尓立て行 介ふこ楚必あやうきめにもあふへき日な禮登 辛(カラ)きおもひを那して 後耳ついて行
(あるじの云、これより出羽の国に、大山を隔て、道さだかならざれば、道しるべの人を頼みて越べきよしを申。さらばと云て、人を頼侍れば、究-竟(クッキョウ)の若もの、脇指をよこたへ、樫の杖を携て、我ゝが先に立て行。けふこそ必あやうきめにもあふべき日なれと、辛(カラ)きおもひをなして、後について行。)
 あるしの云尓た可ハ春 高山森ゝ登して 一鳥聲き可春 木の下闇茂りあひて 夜ル行可こ登し 雲端尓土婦る心地して 篠の中踏分ゝゝ 水を王多り岩尓つま付いて 肌(ハタヘ)尓つめ多き汗を流して 最上乃庄尓出ス 彼案内せし於のこの云やう この道必不用の事有 つゝ可なう送りまいらせて 仕合(シアハセ)志多りと よろこひて王可連ぬ 跡尓聞てさへ 胸登ゝろくのミ也
(あるじの云にたがはず、高山森ゝとして、一鳥声きかず、木の下闇茂りあひて、夜る行がごとし。雲端に土ふる心地して、篠の中踏分ゝゝ、水をわたり岩につまづいて、肌(ハダヘ)につめたき汗を流して、最上の庄に出す。彼案内せしおのこの云やう、この道必不用の事有、つゝがなう送りまいらせて、仕合(シアハセ)したりと、よろこびてわかれぬ。跡に聞てさへ、胸とゞろくのみ也。)

【句碑】
①尿前の関
 宮城県大崎市鳴子温泉尿前
 R47から下る狭い車道有

 蚤虱馬の尿する枕もと

②封人の家
 山形県最上郡最上町堺田59-3

 蚤虱馬の尿する枕もと

【芭蕉像】
①尿前の関

②封人の家

【芭蕉訪ね地?】
①分水嶺
 陸羽東線堺田駅前


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