29.平泉

【芭蕉自筆影印】
 三代の栄耀 一睡の中尓して 大門の跡ハ 一里こな多に有 秀衡可跡盤 田野尓な里て 金鶏山のみ形を残須 先 髙舘尓の本禮者 北上川 南部よ利流るゝ大河也 衣川盤 和泉可城をめくりて 髙舘の下ニて大河尓落入 康衡等可旧跡盤 衣可関を隔て 南部口を指可多め ゑそ越婦せくと見衣多利 扨も 義臣(義経ほか正義の士)春く川て此城耳籠り 功名 一時の草村登な流 国破連て山河あり 城春尓して青々堂利登 笠打敷て 時のうつるまて なみ多越落し侍りぬ
(三代の栄耀、一睡の中にして、大門の跡は、一里こなたに有。秀衡が跡は、田野になりて、金鶏山のみ形を残す。先、髙舘にのぼれば、北上川、南部より流るゝ大河也。衣川は、和泉が城をめぐりて、髙舘の下にて大河に落入。康衡等が旧跡は、衣が関を隔て、南部口を指かため、ゑぞをふせぐと見えたり。扨も、義臣(義経ほか正義の士)すぐつて此城に籠り、功名、一時の草村となる。国破れて山河あり。城春にして青々たりと、笠打敷て、時のうつるまで、なみだを落し侍りぬ。)

 夏艸や兵共可夢乃跡
(夏草や兵共が夢の跡)

 卯花尓兼房みゆる白毛哉 曽良
(卯花に兼房みゆる白毛哉 曽良)

 兼て耳驚したる二堂 開帳ス 経堂ハ三将能像を残し 光堂盤三代の棺を納メ 三尊の佛を安置ス 七宝散うせて 玉能扉 風尓破連 金の柱 霜雪耳朽(クチ)て 既 頽(タイ)廃空虚の草村登なるへき越 四面 新尓囲天 甍を覆て風雨を凌(シノグ) 暫時 千歳の記念(カタミ)と盤な連利
(兼て耳驚したる二堂、開帳す。経堂は三将の像を残し、光堂は三代の棺を納め、三尊の仏を安置す。七宝散うせて、玉の扉、風に破れ、金の柱、霜雪に朽(クチ)て、既、頽(タイ)廃空虚の草村となるべきを、四面、新に囲て、甍を覆て風雨を凌(シノグ)、暫時、千歳の記念(カタミ)とはなれり。)

 五月雨や年ゝ降て五百多ひ
(五月雨や年ゝ降て五百たび)

 蛍火能昼盤消つゝ柱可那
(蛍火の昼は消つゝ柱かな)

【句碑】
①詠地付近になし

(五月雨や年ゝ降て五百たび)
(五月雨や年ゝ降るも五百たび 初案 大垣記念館・素龍本)

②詠地付近になし

(蛍火の昼は消つゝ柱かな)

③高館義経堂(たかだちぎけい)
 岩手県西磐井郡平泉町平泉字柳御所14


 夏草や兵共可夢乃跡
(夏草や兵共が夢の跡)


④中尊寺金色堂
平泉町平泉字衣関202

 五月雨能降残之天也光堂
(五月雨の降のこしてや光堂 大垣記念館・素龍本)(芭蕉自筆本になし)

⑤毛越寺
 平泉町平泉字大沢58


 夏草也徒者毛乃止母可夢能跡
(夏草やつはものともか夢の跡)
  (夏草や兵共が夢の跡)


⑥毛越寺 旧碑

 夏草や兵共可夢乃跡
(夏草や兵共が夢の跡)



【芭蕉像】
①中尊寺


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