37.象潟

【芭蕉自筆影印】
①紀行文
 江-山水-陸の風光 数を盡して 今象泻二方寸(ホウスン心)を責(セム) 酒田の湊より東-北の方 山を越 礒をつ多ひ いさこ(砂)越蹈て 其際十里 日影やゝ可多婦く(傾く)比 汐風眞砂を吹止 雨朦-朧として 鳥海の山可くる 闇-中爾莫-作して 雨も又奇なりとせ者 雨後の晴-色又頼母敷(タノモシキ)と 蜑の笘屋(漁夫の家)尓膝を入て 雨の晴るゝを待
(江-山水-陸の風光、数を尽して、今象潟に方寸(ホウスン心)を責(セム)。酒田の湊より東ー北の方、山を越、礒をつたひ、いさご(砂)を踏て、其際十里、日影やゝかたぶく(傾く)比、汐風真砂を吹上、雨朦-朧として、鳥海の山かくる。闇-中に莫-作して、雨も又奇なりとせば、雨後の晴-色又頼母敷(タノモシキ)と、蜑の笘屋(漁夫の家)に膝を入て、雨の晴るゝを待。)

 其朝天能(ヨク)晴て 朝日花や可に指出る程耳 象泻耳舟をう可ふ 先(マズ)能因嶋に舟をよせて 三年幽居の跡をと婦らひ む可ふの岸尓舟をあ可禮者 花の上こく登よまれし桜の老木 西行法師の記念を残ス 江上尓御陵あ梨 神功后宮乃御墓登云 寺越干満殊寺と云 この處尓御幸あ里し事いま多き可春 い可なる故ある事尓や
(其朝天能(ヨク)晴て、朝日花やかに指出る程に、象潟に舟をうかぶ。先(マズ)能因嶋に舟をよせて、三年幽居の跡をとぶらひ、むかふの岸に舟をあがれば、花の上こぐとよまれし桜の老木、西行法師の記念を残す。江上に御陵あり、神功后宮の御墓と云。寺を干満殊寺と云。この処に御幸ありし事いまだきかず。いかなる故ある事にや。)

 此寺乃方丈(座敷)尓坐して簾を捲者 風景一眼の中尓盡て 南尓 鳥海天越さゝへ 其陰うつりて江耳有 西ハ むやゝゝの関路を可きり(途中まで見え) 東耳 堤を築て 秋田尓可よふ道 遥尓 海北尓可まへて 波打入るゝ處越汐こしと云 江の縦横一里者可り 俤松嶋尓可よひて 又異(コト)な梨 松しま盤王らふ可ことく 象泻盤うらむ可こ登し さひしさに可奈しひをく者へて 地勢魂をなやま春に似多利
(此寺の方丈(座敷)に坐して簾を捲ば、風景一眼の中に尽て、南に、鳥海天をさゝへ、其陰うつりて江に有。西は、むやゝゝの関路をかぎり(途中まで見え)、東に、堤を築て、秋田にかよふ道、遥に、海北にかまへて、波打入るゝ処を汐こしと云。江の縦横一里ばかり、俤松嶋にかよひて、又異(コト)なり。松しまはわらふがごとく、象潟はうらむがごとし。さびしさにかなしびをくはへて、地勢魂をなやますに似たり。)

 象泻や雨耳西施か禰ふの花
(象潟や雨に西施がねぶの花)

 汐越や鶴者きぬ連て海涼し
(汐越や鶴はぎぬれて海涼し)

 祭礼
(祭礼)

 象泻や料理何くふ神祭 曽良
(象潟や料理何くふ神祭 曽良)

 蜑の家や戸板を敷て夕すゝミ 美濃国商人 低耳
(蜑の家や戸板を敷て夕すゝみ 美濃国商人 低耳)

 岩上耳雎鳩の巣を見る 
(岩上に雎鳩の巣を見る)

 波こえぬ契ありてやみさこの巣 曽良
(波こえぬ契ありてやみさごの巣 曽良)

②「きさがたの」等三句懐紙

 幾佐可多能雨や西施可袮婦の花

夕方雨やみて、處の何可し舟尓て江の中を案内せらるゝ

 ゆふ晴や桜耳涼む波の華

腰長の汐登いふ處ハいと浅く亭 鶴おり立てあ佐る越 

 腰長や鶴脛ぬ礼て海涼し

(きさかたの雨や西施がねぶの花

夕方雨やみて、処の何がし舟にて江の中を案内せらるゝ

 ゆふ晴や桜に涼む波の華

腰長の汐といふ処はいと浅くて、鶴おり立てあさるを

 腰長や鶴脛ぬれて海涼し )

③「きさがた」等四句懐紙

 幾佐可多の安免や西施可袮ふの者な

 ゆふ者礼や桜耳涼む波の花

④「腰長や」発句短冊

    こし堂介のし本登云處尓て

 腰長や鶴脛ぬ連亭海涼し

【句碑】
①蚶満(かんまん)寺


 象泻の雨や西施可ねふ能花
(象潟の雨や西施がねふの花 初案 大垣記念館) 

②蚶満寺本堂裏

 象泻能雨や西施可禰ふの花
(象潟の雨や西施がねぶの花)

③象潟駅広場北側  付近に「腰長橋」有

 幾佐可多能雨や西施可禰婦の花
(きさかたの雨や西施がねぶの花 大垣記念館 初案)

④象潟駅広場北側

 腰長や鶴脛ぬ礼て海涼し
(腰長や鶴脛ぬれて海涼し 大垣記念館 初案)


⑤象潟駅広場北側

 ゆふ晴や桜耳涼む波の華
(ゆふ晴や桜耳涼む波の華 大垣記念館)


⑥詠地付近になし

 (汐越や鶴はぎぬれて海涼し)
 

【芭蕉像】
①蚶満寺

【芭蕉訪ね地】
①三崎峠(旧街道)





②ねむの丘





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