47.福井

【芭蕉自筆影印】
 福井ハ三里計な禮者 夕飯志多堂めて出るに 堂そ可禮の道堂登ゝゝし 爰耳等裁と云古き隠子(インジ)有 いつ連の年尓や 江戸耳来りて予を尋 遥十とせ餘り也 い可尓老さら本ひて有尓や 将(ハタ)死遣る尓や登 人尓尋侍連者 いま多存命志て そこゝゝ登 をしゆ
(福井は三里計なれば、夕飯したためて出るに、たそかれの道たどゝゞし。爰に等裁と云古き隠子(インジ)有。いづれの年にや、江戸に来りて予を尋。遥十とせ余り也。いかに老さらぼひて有にや、将(ハタ)死けるにやと、人に尋侍れば、いまだ存命して、そこゝゝと、おしゆ。)

 市中ひそ可に引入て あやしの小家尓夕顔 遍ちま能者可ゝ利 鶏頭 者ゝ木ゝ尓戸本そ越可く春 扨(サテ)盤此うちにこ楚登門を叩者 侘し氣な流女能出て いつくよ利王多利給(?)ふ道心能御坊尓や あるし盤 このあ多利何某と云ものゝ方尓行ぬ もし用あら者 尋多万(?)へ登云
(市中ひそかに引入て、あやしの小家に夕顔、へちまのはかゝり、鶏頭、はゝ木ゝに戸ぼそをかくす。扨(サテ)は此うちにこそと門を叩ば、侘しげなる女の出て、いづくよりわたり給(?)ふ道心の御坊にや、あるじは、このあたり何某と云ものゝ方に行ぬ、もし用あらば、尋たま(?)へと云。)

 可禮か妻なるへしと志らる む可し物可多利尓こ楚可ゝる風情ハ侍連と や可て尋あひて 其家尓二夜とま里て 名月盤つる可能湊尓と旅立 等裁も共尓送らんと 裾お可しうから希て 道の枝折と う可礼立
(かれが妻なるべしとしらる。むかし物がたりにこそかゝる風情は侍れと、やがて尋あひて、其家に二夜とまりて、名月はつるがの湊にと旅立。等裁も共に送らんと、裾おかしうからげて、道の枝折と、うかれ立。)




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