35.出羽三山・羽黒

[6月3日(7月19日)〜]
    本合海〜手向〜本坊〜羽黒山南谷(3泊)
[6月6日(7月22日)曽良日記]
    月山権現・月山角兵衛小屋(泊)
[6月7日(7月23日)〜]
    湯殿山〜南谷(3泊)

【芭蕉自筆影印】
①紀行文
 六月三日 羽黒山耳登る 図司左吉と云もの越尋て 別當代會覚阿闍利尓謁ス 南谷の別院尓舎して 憐愍(レンミン思いやり)の情こまや可にあるしせら流
(六月三日、羽黒山に登る。図司左吉と云ものを尋て、別当代会覚阿闍利に謁す。南谷の別院に舎して、憐愍(レンミン思いやり)の情こまやかにあるじせらる。)

 四日 於本坊俳諧興行
(四日、於本坊俳諧興行)

 有難也雪越可本良春南谷
(有難や雪をかほらす南谷)

 五日 権現尓詣 當山開闢能除大師ハいつ禮の代能人登云事を志らす 延喜式尓羽州里山の神社と有 書泻 黒の字誤て里山となせる尓や 羽州黒山を中略志て羽黒山と云尓や 月山 湯殿を合て三山とす 當-寺 武-江東-叡尓属して 天-台止-観乃月明ら可に 圓-頓融-通の法の燈可ゝ氣そひて 僧坊 棟をならへ 修ー験行-法を励し 灵-山灵-地の校(?)-験 人貴ヒ且恐ル 繁栄長(トコシナヘ)尓して 目出度御山と可謂
(五日、権現に詣。当山開闢能除大師はいづれの代の人と云事をしらず。延喜式に羽州里山の神社と有。書写、黒の字誤て里山となせるにや。羽州黒山を中略して羽黒山と云にや。月山、湯殿を合て三山とす。当-寺、武-江東-叡に属して、天-台止-観の月明らかに、円-頓融-通の法の燈かゝげそひて、僧坊、棟をならべ、修ー験行-法を励し、霊-山霊-地の効(?)-験、人貴び且恐る。繁栄長(トコシナヘ)にして、目出度御山と可謂。)

 八日 月-山尓登ル 木綿志め身に引かけ 寶-冠耳頭を包 強-力と云もの耳道ひ可禮て 雲-雰山-氣能中に氷-雪越蹈ての本る事(?)八里 更耳日-月行-道の雲-関尓入可とあやしまれ 息絶身こゝえて 頂-上耳至連者 日没(ホツシ)て月あら者る 笹を鋪 篠を枕登して 臥(?)て明るを待 日出て雲消連者 湯殿耳下ル
(八日、月-山に登る。木綿しめ身に引かけ、宝-冠に頭を包、強-力と云ものに道びかれて、雲-霧山-気の中に氷-雪を踏でのぼる事(?)八里、更に日-月行-道の雲-関に入かとあやしまれ、息絶身こゞえて、頂-上に至れば、日没(ホツシ)て月あらはる。笹を敷、篠を枕として、臥(?)て明るを待。日出て雲消れば、湯殿に下る。)

 谷の傍尓鍛冶小屋と云有 此国の鍛-冶灵-水を撰て 爰耳潔-斎志て釼を打 終(ツイニ) 月-山と銘を切て世に棠せら流 彼龍-泉尓釼を淬(ニラグ)と可や干将莫耶の昔を志多ふ 道耳堪能の執(一芸熱心)あさ可らぬ事志ら禮多り 岩尓腰可けて志者しや春らふ程 三尺計な流桜の つ本み半(ナカハ)耳ひら介るあり ふり積雪能下に埋て 者る越王春禮ぬ遅桜の 花の心王り那し(健気) 炎天の梅-花爰耳可本る可こ登し 行尊親王の哥能哀も増りて覚ゆ
(谷の傍に鍛冶小屋と云有。此国の鍛-冶霊-水を選て、爰に潔-斉して剣を打、終(ツイニ)、月-山と銘を切て世に賞せらる。彼龍-泉に剣を淬(ニラグ)とかや干将莫耶の昔をしたふ、道に堪能の執(一芸熱心)あさからぬ事しられたり。岩に腰かけてしばしやすらふ程、三尺計なる桜の、つぼみ半(ナカハ)にひらけるあり。ふり積雪の下に埋て、はるをわすれぬ遅桜の、花の心わりなし(健気)。炎天の梅-花爰にかほるがごとし。行尊親王の歌の哀も増りて覚ゆ。)

 惣而(ソウジテ) 此山-中の微-細 行者の法式として 他言春る事越禁ス 仍て筆をとゞめて志るさ春 坊に帰連者 阿闍利の求耳仍て 三-山順礼の句々 短尺耳書
(惣而(ソウジテ)、此山-中の微-細、行者の法式として、他言する事を禁ず。仍て筆をとゞめてしるさず。坊に帰れば、阿闍利の求に仍て、三-山順礼の句々、短尺に書。)

 涼しさやほの三可月の羽黒山
(涼しさやほの三か月の羽黒山)

 雲の峯幾川崩て月の山
(雲の峯幾つ崩て月の山)

 語良連怒湯殿尓奴良春袂哉
(語られぬ湯殿にぬらす袂哉)

 湯殿山銭ふむ道のなみ多哉 曽良
(湯殿山銭ふむ道のなみだ哉 曽良)

②「涼風や」発句短冊

 涼風や本のみ可月能羽黒山

③出羽三山発句短冊

 涼風や本の三可月能羽黒山

 雲の峯いく川崩礼亭月の山

 閑堂ら礼ぬゆとの尓ぬらす袂可な

【句碑】
①南谷庭園別院跡
 羽黒山表参道三の坂から500m

 有難也雪越加保良須南谷
(有難や雪をかほらす南谷)

②湯殿山神社
 鶴岡市田麦俣字六十里山7

 ?・・・袂可難(雪で倒れ見えず)


③羽黒山頂
 手水舎付近

 涼しさや本能三日月の羽黒山
(涼しさやほの三日月の羽黒山)
 加多羅禮努湯登廼仁奴良須當毛東迦那
(かたられぬ湯とのにぬらすたもとかな)
 雲能峯以久川具徒禮て月の山
(雲の峯いくつくつれて月の山)

④大進坊
 鶴岡市羽黒町手向字手向95

 涼しさや本能三日月の羽黒山
(涼しさやほの三日月の羽黒山)
 加多羅礼努湯登廼仁奴良須當毛東迦那
(かたられぬ湯とのにぬらすたもとかな)
 雲能峯以久川具徒禮て月の山
(雲の峯いくつくつれて月の山)

⑤三山大愛教会
 鶴岡市羽黒町手向字手向93

 涼風や本の三可月能羽黒山
(涼風やほの三か月の羽黒山)
 雲の峯いく川崩礼亭月の山
(雲の峯いくつ崩れて月の山)
 閑堂ら礼ぬゆとの尓ぬらす袂可な
(かたられぬゆとのにぬらす袂かな)
「自筆『出羽三山発句短冊』を拡大」

【芭蕉像】
①羽黒山頂
 手水舎付近


【難解文字(?)】
 の本る事(?)八里
(のぼる事(?)八里)

  参考文字
  「木簡字典 電子くずし字字典」
   webサイトに画像あり
   「上井覚兼日記 伊勢守心得書」

 枕登して臥(?)て
(枕として臥(?)て)

  参考文字
   臥







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