39.市振

[7月12日(8月26日)]
    糸魚川〜親不知〜市振・桔梗屋(泊)

【芭蕉自筆影印】
 介ふハ 親志ら春子志らす 犬无とり 駒返しな登云北国一の難所を越て つ可禮侍連者 枕引よせて寢堂るに 一間隔てゝ面の方に 若きをんな能聲二人計ときこゆ 年老堂る於のこの聲も交て 物語春るをきけ者 越後の国新泻と云處乃遊女成し 伊勢尓參宮春るとて 此関まて於のこ能送りて あすハ古里に可へ春文志多ゝめ 者可なき言伝な登志やる也
(けふは、親しらず子しらず、犬もどり、駒返しなど云北国一の難所を越て、つかれ侍れば、枕引よせて寝たるに、一間隔てゝ面の方に、若きをんなの声二人計ときこゆ。年老たるおのこの声も交て、物語するをきけば、越後の国新潟と云所の遊女成し、伊勢に参宮するとて、此関までおのこの送りて、あすは古里にかへす文したゝめ、はかなき言伝などしやる也。)

 白波のよする汀尓身を者ふら可し あ万能この世をあさましう下りて 定めなき契 日々の業因(しょ) い可尓つ多なし登物云を聞ゝ寝入て あし堂旅多川尓 我ゝ尓む可ひ亭 行末志らぬ旅路のうさ あまり覚束(オボツカ)なう悲しく侍連者 見え可く禮尓も御跡を志多ひ侍らん 衣(僧)の上の御情に 大慈のめくみを多禮て 結縁せさせ多万(?)へ登 なみ多越落春
(白波のよする汀に身をはふらかし、あまのこの世をあさましう下りて、定めなき契、日々の業因(所業)、いかにつたなしと物云を聞ゝ寝入て、あした旅たつに、我ゝにむかひて、行末しらぬ旅路のうさ、あまり覚束(オボツカ)なう悲しく侍れば、見えがくれにも御跡をしたひ侍らん、衣(僧)の上の御情に、大慈のめぐみをたれて、結縁せさせたま(?)へと、なみだを落す。)

 不便乃事尓盤お无ひ侍連共 我ゝハ所ゝ尓てとゝま流方おほし 唯 人乃行尓ま可せて行遍し 神明能加護必つゝ可な可流へし登云捨て出つゝ あ者れさ 志者らくやまさ里介らし
(不便の事にはおもひ侍れ共。我ゝは所ゝにてとゞまる方おほし。唯、人の行にまかせて行べし。神明の加護必つゝがなかるべしと云捨て出つゝ、あはれさ、しばらくやまざりけらし。)

 一家尓遊女も寝多り萩と月
(一家に遊女も寝たり萩と月)
 
 曽良尓可多禮者書とゝめ侍る
(曽良にかたれば書とゞめ侍る。)

【句碑】
①長円寺

 一つ家尓遊女も袮多里萩と月
(一つ家に遊女もねたり萩と月)